5回シリーズ「人材活用について」の4回目「人的資本ISO30414とは」についてお届けします。
連載「人材活用について」
目次
- 「人的資本」への注目が集まる背景
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DX人材の不足
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人的資本の情報開示の義務化
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人的資本ISO30414とは
- 人的資本の活用、情報開示対策として欠かせないもの
4.人的資本ISO30414とは
前回🔗もご案内したとおり、人的資本の情報開示は世界的なトレンドとなっていますが、日本においても、差し迫った課題となっています。今回は、その時期や対策等を見ていきましょう。
問題になっているのは、「人的資本の情報開示の義務化」です。かみ砕いていうと、’「人材をどう活用しているのか、そのために具体的にどんな施策(研修やルール)を実施しているのか」を投資家にわかるように開示しなさい。これは義務、すなわち、したほうがよいのではなく、しなければならないということですよ 'という指導です。
①日本では、対象:大手企業4000社、時期は2023年4月以降
2023年1月の金融庁の発表(※1)では、「令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用。ただし、施行日以後に提出される有価証券報告書等から早期適用可」とあります。すなわち、2023年(令和5年)4月1日以降の有価証券報告書に人的資本の情報開示を義務づけするとしているのです。
どれだけ「人材育成」「人材活用」をしているかを定量的、定性的に公表することが義務となります。対象は、上場企業を中心に、約4,000社と言われています。
※1 金融庁の発表:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(令和5年1月31日)🔗
これまで「人的資本情報開示」に慣れていない日本企業の多くは、何から着手すればよいのか、戸惑う部分も多いと思います。
2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した「人的資本に関する情報開示のガイドライン:ISO30414」を参考に情報開示をしようという企業も出てきています。
ISO30414の取得、維持には体力が必要ですが、ISOに準拠しておくことは有効ではないかと考えられます。
②国際標準規格(ISO30414)の概要
ISO30414は、内部及び外部の関係者に対する、人的資本に関する報告のための指針です。組織に対して、社員(人的資本)が、どれだけ貢献しているかを示し、透明性を高めることを目的として発表されました。事業のタイプ、規模、性質、複雑さにかかわらず、全ての組織に適用可能なガイドラインとなっています。
ガイドラインでは以下の領域に関する指標を定めています。
人的資本エリア | 概要 |
1.コンプライアンスと倫理 | ビジネス規範に対するコンプライアンス測定指標 |
2.コスト | 採用・雇用・離職等労働力のコストに関する測定指標 |
3.ダイバーシティ | 労働力とリーダーシップチームの特徴を示す指標 |
4.リーダーシップ | 従業員の管理職への信頼等の指標 |
5.組織文化 | エンゲージメント等従業員意識と従業員定着率の測定指標 |
6.健康・安全 | 労災等に関連する指標 |
7.生産性 | 人的資本の生産性と組織パフォーマンスに対する貢献をとらえる指標 |
8.採用・異動・離職 | 人事プロセスを通じ適切な人的資本を提供する企業の能力を示す指標 |
9.スキルと能力 | 個々の人的資本の質と内容を示す指標 |
10.後継者計画 | 対象ポジションに対してどの程度承継候補者が育成されているかを示す指標 |
11.労働力 | 従業員数等の指標 |
出典)Human Capital Management Standards(2019)等を参考に筆者加工
これらの項目を網羅し提示できるのが理想ですが、本来大事なことは、社員に働き甲斐を持たせ、モチベーションをもって仕事に望めるように、どのような施策をしているか、環境を整えているか、を表すことです。さらにいうと、個々の社員が活き活きと働くことを、企業として重要だと認識しているか、ということです。
ISOは、ただ単に、こういった項目で表示すれば、評価されやすいですよ、という目安を提示しているに過ぎません。もし、何から手をつけたらいいかわからない場合、着手しやすいのは「人材育成」の領域です。
上記ISOの項目のなかに「9.スキル及び能力」という項目があります。
9.スキル及び能力
1.人材開発及び研修にかかる全てのコスト 2.学習及び成長 a)年間の従業員数に対する研修に参加した従業員の割合 b)従業員一人当たりの平均的な研修プログラムに定められた研修時間 c)研修プログラムに定められた様々なカテゴリーの研修に参加した従業員の割合 3.従業員のコンピテンシー率 |
研修の履歴やフィードバックが整理されていれば、上記の項目の開示は着手しやすいと思われます。実際に、LMS(ラーニングマネジメントシステム)を導入している企業では、ISMS(※2)等に該当する必須研修の結果を問われた際に、社員の研修履歴をエビデンスとしてすぐ提出することができ、企業の信用度を高めた事例もあります。
※2 ISMS 情報セキュリティマネジメントシステム🔗
LMS(ラーニングマネジメントシステム)があれば、定量的な学習履歴や結果がすぐ提示できます。また、あちこちのデータにアクセスする社内事務処理も劇的に軽減されます。
次回は、このLMSについて詳しくお話します。
この記事の筆者
教育プラットフォーム戦略室長 杉 眞里子
旅行会社、大手生命保険会社を経て、NTTドコモ、 日本IBMで数多くの政府政策系実証実験や官民をつなぐプロジェクトを経験。昨年12月、ジンジャーアップに入社。